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第12回 経営が行き詰るとき
2023年10月17日
投稿者:林 丈郎
「経営のヒント」というコラムで経営が行き詰ることを投稿するのはなんだか変な感じがするかもしれません。
料理をする前にはじめることは、自分の持っている素材は何であり、何が足りないかを把握することではないでしょうか。足りないものが何か、それをどう調達するかを検証することが大切です。
ここでは中小企業診断士を中心とする一応経営学を学んだ専門家がコラムを書いています。
ところで、ご存じの方も多いと思いますが、経営学、特に経営戦略は軍事戦略の考え方を土台に構築されています。
まさに戦略(strategy)という言葉や目標((military)target)、ロジスティクス(兵站)などの言葉は、そのまま経営学の用語となっています。
さて、軍事上の戦略や作戦を立てるときは、かならず撤退戦略も検討します。
すなわち、軍事目標・目的に対してどの程度まで戦力(兵器および兵)を投入してよいのか、逆にどの程度までなら損耗を許容できるのかといったシミュレーションがなされます。
非常に単純化したところでは、前線に投入した戦力の20%が損耗すると戦闘継続困難、30%で戦闘不能、40%を越えると壊滅とされているようです。
なお、旧日本軍では50%で壊滅とされていたとのことですし、ほとんど生存者が残らない玉砕ということもありました。
このことから分かるように、現代においては戦力を温存したところで撤退の判断をすることが常識であり、軍事目標を達成できないのに戦闘継続の判断をすることは、そもそも指揮官としての資質に欠けるということになります。
わたしは何も「事業が儲からなければさっさとやめなさい」と言いたいわけではありません。
物事というのは多面的ですし、環境が好転することもあるでしょう。したがって、うまくいかないことがあったとしても、別のやり方はないか、もっとうまくできないかと考えることはとても重要です。
しかし、経営がうまくいかなくなったとき、必要以上に私財を投入したり、金融機関や親戚縁者からの借入が過度とならないように注意を払う必要があります。
たとえ借入や返済額が一定であったとしても、収益力が下がっていけば相対的に過度の負債・負担となってしまうわけです。
特に一定の年齢に達したベテラン経営者の場合、撤退戦略はより重要になります。
そのときはこう考えてみてください。
< 例 >
第一ステップ 引退後の生活 収入(年額 ①)
2,400千円=月々の年金・配当金等(夫婦)200千円×12月
支出(年額 ②)
3,000千円= 月々の生活費及びときどき楽しみ250千円×12月
※高齢夫婦世帯消費支出平均 235千円/月。これとは別に自宅の維持管理、もしもの蓄え、子・孫の援助などを含む
収支(年額 ③)
△600千円= ① - ②
第二ステップ 期間の仮定 期間を20年と仮定
△12,000千円(③×20年 ④)
第三ステップ 月々の生活費への加減 所有金融資産 預金15,000千円 ・・・ 必要に応じて取り崩し
事業用借入返済 ・・・ △???
この物価高のご時世、引退後に少々ゆとりのある生活をするなら収支はマイナスとなってしまうかもしれません。
上記の試算では、所有金融資産を取り崩すことで収支はほぼ“トントン”となりますが、事業用借入の返済が残っているとするなら、引退後の生活も楽ではなくなってしまいます。
当然のことながら、引退後の生活を少しでも穏やかなものとするためには、事業における残債務をできるだけ小さくしておく必要があります。
ベテラン経営者の場合、引退後のライフプランニングは経営のプランニングと同じか、それ以上に重要なものです。人生百年時代、引退後のライフプランニングは撤退戦略を検討する重要な指標です。
そもそも多くの中小事業者にとって、事業と生活は切っても切れない関係です。
繰り返しますが、戦果を挙げるために最大限の努力を傾けることは言うまでもありません。
しかし、不幸にして経営に行き詰まりを感じるときは、早めに撤退シミュレーションをしてみることをお勧めします。
商売のために人生があるのではなく、人生のために商売があると考えると、気が楽になるのではないでしょうか。