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第23回 スーパーマーケット考
2024年10月15日
投稿者:今井 武史
2024年版スーパーマーケット白書(全国スーパーマーケット編)によると、全国のスーパーマーケットの店舗数は23,078店、総販売額は25.5兆円となっている。
総務省統計局が発表した令和6年4月1日時点での日本の総人口は1億2400万人(概算:日本人以外も含む)である。
ここから、1店舗あたりの人口と販売額を算出すると人口5,373人/店、販売額11億495万円/店となる。
私が現役の頃の話であるが、スーパーマーケットの必要商圏人口は2万人とされてきた。
1店舗あたりの人口が1万人を割り込みそうだと騒いでいたのが10数年前。それが更に半分ほどとなってきた。
売上も、現役時代は某市内の地方スーパーでは平均販売額が13億~15億円/店あったと記憶しているが、現在は(ホームページなどで店舗数・売上を公表している店舗を計算したところ)、私が調べた企業のほとんどが8億~10億円/店の売上となっている(ディスカウント形態除く)。
現在も存続しているスーパーマーケットの企業経営者の効率化、コストダウンに対する努力には頭の下がる思いである。
一方、収益の悪化を防ぐため、ローコストオペレーションの構築とそれに伴うコストダウンの連続により、将来的な収益の拡大・新規顧客の獲得を行うため、他者と対抗するためのリソース(経営資源)を切り詰めすぎていないだろうか。
リソースという観点から、おさらいしておきたい理論がある。
嶋口充輝が提唱した嶋口モデルである。
嶋口モデルは、フィリップ・コトラーの競争地位戦略を日本の経営環境に適合させるために再構築させたもので、コトラーが市場シェアに着目したのに対し、嶋口はリソース(経営資源)に着目して理論構築を行っている。
経営資源を質の高低、量の大小の4象限に区切り、リーダー企業(質:高、量:大)、チャレンジャー企業(質:低、量:大)、ニッチャー企業(質:高、量:小)、フォロワー企業(質:低、量:小)に区切りそれぞれに適した戦略を示しいている。
そして、嶋口モデルでは、この4つの象限に対し、目標や戦略を明確にしている。
リーダー企業は、目標を
①市場規模の拡大
②最適市場シェアの維持・拡大
③最大利潤や名声の獲得
④No.1の地位の維持としている。
戦略は、
①他社の差別化戦略の同質化・無効化
②独占禁止法等に抵触しない最適シェア
③フルライン戦略
④プロモーションは全体的に訴求
などが挙げられる。
チャレンジャー企業の目標は、市場シェアを拡大し、リーダー企業の地位を狙うことにある。
そのための戦略は、リーダー企業との差別化である。
ニッチャー企業の目標は特定市場におけるシェアを拡大することによる利潤・名声・イメージの獲得である。
戦略は特定市場への集中化によって、その市場でのリーダー化を図ることにある。
最後にフォロワー企業であるが、目標自体が生き残りとなる。
戦略はリーダー企業やチャレンジャー企業の観察と模倣ということになる。模倣であり、オリジナルではないわけであるから、低価格路線で薄利多売の商売に向かいがちである。
ただし、本稿で取り上げたスーパーマーケット業界では、大手であればあるほど、規模の経済性を発揮することにより、低価格化を実現しており、中小のスーパーマーケットでは価格勝負を行うことは容易ではない。
また、大手は、そのリソース(経営資源)を活用し、PB商品の開発を積極的に行い、高品質化や更なる低価格化を行っており、顧客の指示を取り付けている。
この環境の中で、中小のスーパーマーケットが低価格路線のみで生き残りを図ることは容易ではない。
では、差別化ではどうか。
筆者が、中小スーパーマーケットを回り、ストロングポイントや、今後強化すべきと考えているポイントを尋ねると、どこも同じような答えが返ってくる。
「生鮮特化」「総菜強化」「顧客満足度向上のための接客能力向上」。
笑えることに、内容だけでなく、言葉もほぼ一緒なのだ。
これはなぜか。実は、10年以上も前にこのことを指摘している人物がいる。
日本リテイリングセンター シニア・コンサルタントの桜井 多恵子氏である。
桜井氏は、2012年チェーンストアエイジへの寄稿の中で、こう記している。
「なぜSM(※筆者注:スーパーマーケットの略)だけがチェーン化に後れを取っているのかといえば、業界内にはびこる科学的根拠のない「成功例」の模倣による同質化が、革新性の喪失を招いているからである。」
桜井氏はチェーン化に関して記述しているが、筆者は、一部の企業を除くとスーパーマーケット業界にはびこっている問題であると考える。
専門誌や新聞、セミナーなどで得た成功事例を水平展開という名のもとに、自社に取り入れているだけになっていないだろうか。
もちろん、取り入れていること自体が悪いと言っているわけではない。
プラスαで、自社のオリジナルの強みを創造し、育成していこうとしてきただろうか。
もし、創造し、育成してきたのであれば、筆者が接してきた限られた企業ではあるが、そのほとんどのストロングポイントや、今後強化すべきポイントが、その単語までほぼ一緒になるのはなぜだろうか。
この過酷な環境の中で、生き残っていくためには、やはり、他者が持っていない強みを育成していくことが大切であると考える。
そのためには、コストダウンに注力するばかりではなく、自社の強みを育成していくためのリソースを蓄積していくことも同時に意識していかなければならない。
先日、飲食専門のコンサルタントの講演を伺った。飲食店とチェーンの居酒屋・レストランは違い、戦略・戦術も全く違うという。
彼が言うには、チェーンの居酒屋やレストランは飲食店ではないという。
「システム屋」だというのだ。
セントラルキッチンというシステムや物流システム、EOSシステム、顧客管理システムなどを組み合わせ、総合的な効率化を目指した「システム屋」なのだという。
中小のスーパーマーケットの経営に対し、このことは重要な示唆を示しているのではないであろうか。
つまり、大手がやっていることは、中小企業が真似をしても必ずしも成功するとは限らず、逆にリーダー企業の同質化戦略に自ら嵌りに行っていることとならないだろうか。
筆者は現役時代、一風変わったスーパーマーケットで勤務してきた。
当時は「日本一視察の多いスーパー」と言われたものだった。
当然、大手の効率化されたスーパーと、自店との違いというものを肌で感じながら働いていたし、大手ではやらないであろうことも、日々の業務として実行してきたし、そのことが売上・収益の向上という面で有効であったことも実感している。
そして、それは経路依存性・模倣困難性を伴った他社にない強みであったと思う。
それは何か。
消費者はなぜ、商品を買うのかということを突き詰めることである。
消費者がなぜ自店に来店するのかを突き詰めることである。
人間は決して合理的ではない。
晩御飯の材料を買いに店に行ったのちに夕食のメニューを決めることもあれば、衝動買いだってする。
筆者も旅先で特に必要でもないものを購入してしまい、帰宅したあとに、何故購入したのかと自問することがある。
では、どのような効果が心理的に作用して、購買行動に影響が出るのか、次回から消費者心理学を中心に購買行動に影響を与える要素などを筆者の拙い知識と経験をもとに紹介していきたいと思う。
最後に読者方々の中には気になる方もおられると思うので追記しておく。
先述の飲食専門コンサルタントがチェーンの居酒屋・レストランと違い、飲食店が何をするべきか。
細かく言えば多岐にわたるが、顧客へのアプローチをどのように考えるか、ということである。
顧客へのアプローチを考えるうえで、消費者の心理がどのように動くのかを知っておくことは非常に重要なのである。