経営のヒント

経営改善、経営革新、IT導入、事業承継、起業、補助金など
様々なステージにおける経営に関する情報をお届けします

経営のヒントTOP
経営改善(10) 経営革新(7) 新規創業(3) IT導入(2) 資金繰り(2) 補助金(0) 事業承継(1) 設備投資(0) 販路開拓(1) その他(15


第26回 イノベーションとデザイン経営・デザイン思考


2024年11月28日

投稿者:日下部 清

1.新時代に求められる「課題発見力」と「課題解決力」

コロナ・異常気象・地震災害・世界経済の変動など私達を取り巻く環境変化はますます大きくなっています。
誰にも「先の読めない時代」が続いている中での経営者にとって最も重要なことは、自分の中にしっかり軸を持って経営を乗り切る自信です。
競合他社と差別化して得意先・顧客の要求にしっかりと応えられる独自の商品・サービスを提供できる経営力の強化がますます重要になってきていると思います。
安定している時代ではある程度問題は分っていて問題を上手に解く「問題解決力」が重要でしたが、不確実性の高い時代には本当に解決すべき問題を見つける「問題設定力」が重要になってきています。
「与えられた問題の解決」についてはAI活用が急速に広がっていくと期待されており、これからのAI時代に人間が強化すべき力は、その上流の「問題そのもの」を能動的に見つけていく思考力だと思われます。
毎日の業務に追われることの多い中小企業での関心は目の前の問題解決に向けられていることが多く、どうしても長期的・本質的な問題解決やイノベーションに取り組む時間と習慣が不足がちになります。
じっくりと本質的な課題設定と解決に取り組んで、持続可能な新しいビジネスモデルを創造していく思考力を磨いていく事の重要性を強く感じています。
イノベーションを起こすためには、自分の頭で能動的に真の問題を発見していく下記の様な思考姿勢が大切になります。

・経験に基づいた常識を疑う、多数派を疑う、異なる考え方の発想から学ぶ
・そもそもそれは正しい問題設定なのか?と問題設定を疑い、自分ならではの課題を設定する
・「なぜ?」を繰り返して考えることで問題の本質を掘り下げて、思考の「枠」を広げる
・問題の本質を抽象化して「具体」―>「抽象」―>「具体」という抽象化と具体化を組み合わせて「問題を発見する」考え方に慣れていく



2.顧客ニーズ起点のイノベーション

近年の若い世代の社員が持っている働く感覚は、高度経済成長の時代を過ごした高齢者世代の意識とは大きく変化してきています。

・消費者としても従業者としても心の豊かさを求める
・自分らしさを追求している、自分自身を大切にする
・仕事への満足感だけでなく、心の豊かさや自由時間の充実を求める方向へシフトしてきている

「働き方改革」意識の浸透も進んでおり、昔ながらの企業の在り方では人々の気持ちを動かすことが出来ず、「社員が定着しない」「良い人材が集まらない」といった状態になってしまっているようです。
人が集まり人に選ばれる会社になる為には、従業員と共感できる会社の理念やビジョンなど「会社の在り方」を示す必要があるようになってきています。
また人々の生活が豊かになるにつれて、消費者の価値観もモノ消費>コト消費>イミ消費へと変化しています。
消費者は商品の持つ機能性だけでなく、使用や体験後の安心感・幸福感などの情緒的な価値を重要視するようになってきました。
モノを所有すること以上に、製品を購入した後に継続的に使用することで得られる「使用価値」が大切にされるようになってきています。
「シェアリングサービス」「サブスクリプションサービス」などは、色々な業界で幅広く普及してきています。
「モノ」と「サービス」を組み合わせて顧客体験価値を高度化し、アフターサービスも保証して顧客満足度を高めるような「サービス競争」が広がってきています。
インターネットを活用して利用者との協力も受けながらサービス内容をブラッシュアップしていく企業の事例も多くなっています。
身近な地域にあっても、小規模でも地域の消費者の身近な困りごとや社会課題の解決に着眼して、独自のスモールビジネス・ソーシャルビジネスなどを始められる方々も多くなってきています。
ホームページやSNSを上手に活用することで、サービスを提供する側とサービスを受ける側が密接に連携できる新しいビジネスモデルを考えやすくなってきました。
Web上には世界の人たちが自己実現に向けて取り組んでいるイノベーションの事例がたくさん紹介されて、自分が取り組みたいテーマについて実現出来る手法を見つけることが大変容易になっています。
これから本当にやりたい事業を起こす人達は、「提供者起点」ではなく「顧客ニーズ起点」に立つことを徹底し、今までは顧客も気づいていなかった「潜在ニーズ」に着眼したビジネスに挑戦していくことが重要です。
自分自身の想いを大切にして「既存の考え方ではピンチだけれども潜在ニーズを掘り下げることでチャンスを発見する」という姿勢が不可欠です。

3.「デザイン経営」による競争力強化

平成18年に経済産業省と特許庁が「デザイン経営宣言」を発表しましたが、「顧客ニーズからイノベーションを起こす」経営手法としてデザイナーの持つ創造性を活用する「デザイン経営」が関心を高めています。
ここでいうデザインは形のあるスタイルやロゴなど「狭義のデザイン」ではなく、問題解決のためのビジネスモデルの設計などを含めた「広義のデザイン」ですが、企業競争力を強化し利益や成長力を向上させるために大変有効な考え方だと思われます。
「デザイン経営」は、デザイナーの持っている「創造的な問題解決思考」を人々が快適にもっと楽しくもっと幸せになれるビジネス戦略の策定に活用しようとするもので、取組事例から以下のような効果があると実証されてきています。

① 企業が大切にしている価値とそれを実現しようとする意志を表現する:誰のために何をしたいのかという原点に立ち返ることで既存の事業に縛られずに事業化を構想できる。

② ブランド力が向上する:個々の製品の外見を好感度の高いものにするだけではなく、顧客が企業と接点を持つあらゆる体験にその価値や意志を徹底させ、それを一貫したメッセージとして伝えることで、他の企業では代替できないと顧客が思うブランド価値を創造する。

③ イノベーションを実現する力になる:人々が気付かないニーズを掘り起こし、新たな事業にしていく営みになる。供給側の思い込みを排除し、対象に影響を与えないように観察する。そうして気づいた潜在的なニーズを、企業の価値と意志に照らし合わせて新しい製品やサービスの事業を創造する。

④ 常に人を中心に据え、人の悩みやニーズを確かめながら人々が本当に必要としている商品やサービスは何かを探求し、創造力を高めてサービス・商品を開発していく。

 

4.「デザイン思考」の5ステップ

「デザイン経営」の基礎になる「デザイン思考」とは「デザイナーの問題解決のアプローチをビジネスに転用した思考法」であり、デザイン自体が目的ではなくデザインは問題解決のための手段という認識に立っています。
デザイン思考の特徴は、「人」に着目すること、及び、顧客自身も言語化できていない「潜在ニーズ(インサイト)」を掘り下げて問題を発見しアイデアを創造していくところです。
「デザイン思考」は「創造的問題解決思考」として難しいものと捉えられているようですが、特別なものではありません。
「デザイン思考の5ステップ」は下記のようなものですが、慣れていけば身近なテーマ発見にも活用することが出来ると思います。

① 共感:相手の立場になりきる
顧客の行動をよく観察し顧客の感情も深く理解して分かち合い、その人になりきって考える

② 問題定義:インサイト(本音)を発見する
顧客の立場に立って「潜在ニーズ」を発見し、問題を定義する

③ 創造:問題解決のアイデアを出す
実際に問題を解決するためのアイデアを考える
アナロジー思考、統合思考、転換思考etc

④ プロトタイプ:イメージ・認識を共有できるものを作る
製品やサービスの魅力が最低限伝わるプロトタイプを作成し、実際にサービスを使って利用のイメージを理解してもらうことが大切です

⑤ テスト:フィードバックを受ける
顧客に使用してもらい、フィードバックを受ける事により、デザイン思考プロセスのステップの課題が明確になり改善を続けていく



5.最後に

原則的なことばかりを述べましたが、実際に中小企業の経営者が一人で「問題発見と課題解決」に取り組むのは容易ではなく、第三者と一緒に課題の整理を行ってアイデアを創出していくプロセスも重要です。
N-Nets所属の中小企業診断士は、自社事業や地域社会の課題を考えながら「イノベーション」に取り組みたいと考えておられる経営者を支援し、積極的にアドバイスしていきます。
N-Netsの「無料相談会」などにお気軽にお問合せ下さい。よろしくお願いいたします。

(参考)
・経済産業省・特許庁:デザイン経営宣言
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/kenkyukai/kyousou-design/document/index/01houkokusho.pdf
・「問題発見力を鍛える」(細谷功著/講談社現代新書)
・「サービスデザイン思考」(井登友一著/NTT出版)
・「経営とデザインのかけ算」(尾崎美穂著/合同フォレスト)




記事一覧・・・

 

Page Top