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第32回 基本的な「具体化と抽象化」の思考力を磨く
2025年05月28日
投稿者:日下部 清
1.AIが得意なこと・不得意なこと今の時代あらゆる情報に瞬時にアクセスし、ビッグデータを容易に活用することができるようになっています。
また、生成AIの技術は自律的に新しいものを創造でき、「人間が手作業で行うよりも高速にコンテンツを生成できる」「専門的な知識がなくても利用可能」などのメリットが大きく、利用範囲や使いやすさなどが急激に進歩しています。
下記のような分野での実用的な普及の進展は驚くばかりです。
・テキスト生成:論文の作成、小説の執筆、チャットボットでの会話、広告文の作成
・画像生成:写真の修正、新しい絵の作成、イラスト、フォトモンタージュ
・音声生成:テキスト読み上げ、ナレーション、音楽の作成
・動画生成:映像作品の作成、アニメーション、CG
・プログラムコード生成:プログラミング言語でのコード生成
生産性を向上させる技術としてロボットの普及以上に、活用について学んでいくことは避けて通れない状況になってきていると思います。
ただし私たちは、基本的に下記のようにAIの得意なことと不得意なことの特徴もよく把握したうえで活用する姿勢が大切です。
2.「問題発見力」が重要な時代へ地球環境・社会環境の大きな変化は、私たちに新しい社会問題の解決を求めてきています。
「顧客の潜在ニーズから新製品やサービスを開発する」「新しいテクノロジーの活用方法を考える」「世界的な環境やエネルギー問題を解決するための手段を考える」など新しい問題を解決していく力が求められています。
従来にない発想で製品・サービスの開発など革新的なイノベーションを起こす必要性が高まっています。
ただし、私たちは顧客により良い製品やサービスを提供しようとする際、たいてい顧客の口から出た直接的なリクエストやライバル商品との使用の比較だけに思考が向きがちになりますが、複雑化する経営環境の中では、顧客でさえ自分たちが本当に求めている状態に気づかないことが多いものです。
問題設定をそのままにして置いた状況では、新しい価値は生み出せないし、大して差別化も生まれません。
複雑になってきている新しい問題を解決していくためには、まず問題そのものを適切な形で発見して定義する必要があります。
身の回りの具体的な事象を深く掘り下げて観察したうえで、真に解決すべき問題を見つけ出す「問題発見」の後に「問題解決」が始まります。
前述のように、問題が明確に定義出来て膨大なデータが手に入る領域についての問題解決力はAIの方が急速な進化を遂げてきていますが、AIが進化しても「考える力」がないと正しく使いこなせません。
AIに問題を与えるのは人間の役割であり、そのために「そのために「そもそも解くべき問題は何か?」を問いとして発する能力、つまり問題発見の能力が重要になります。
人間にとってますます重要性が高まっていくのは、問題への最適解を見出す「問題解決能力」ではなく、解く価値がある問題とそうでない問題を見極めて能動的に問題を発見する「問題発見力」です。
3.基本的な「抽象化と具体化」の思考力を磨くそんな考える力を向上させる上で、身につけておきたいのが「具体化」と「抽象化」という思考法です。
抽象的・具体的に考えることは、情報を処理し問題を解決するために不可欠な基本的な思考スキルです。
具体化とは、「漠然とした物事をはっきりとした形にすること」です。
「事例や比喩を用いて、かみ砕いて説明する」ためによく使い、「違いを明確にする」「自由度を下げる」「引かれた線の中を詳細化する」「数字や固有名詞にする」などの特徴があります。
【具体化のメリット】は以下のようです。
・実際の事実や例に基づいて理解することができるので伝える力が向上する。
・より鮮明なイメージが得られるので、行動に移しやすくなる。
・具体例を通じて問題発見と解決のアプローチを見つけやすくなる。
抽象化とは「複数の情報に共通する要素を抜き出すこと」です。
重要ではない細部の情報を取り除き、物事の本質を捉えるための思考法です。
「まとめて一つにする」「線引きする」「一言で表現する」「都合のいいように切り取る」「目的に合わせる」
「捨てる」「言語化・図解する」などが特徴です。
【抽象的のメリット】は以下のようです。
・一つの事例を、他の場面でも活かせるようになり応用力がアップする
・複雑な情報を整理し、核心をつかむ力がつき、全体像を把握しやすくなる
・表面的な違いではなく、根本的な共通点や仕組みに気づいて本質を捉える思考ができる
問題解決にあたってはこのような特徴をよく理解して、場面に合わせて使いこなす思考力が重要です。
抽象的思考力と具体的思考力は車の両輪であり、一方が欠けたり過剰になると真価を発揮できません。
これまでの経験から学びを抽出し、「仕事のコツ」や「業務フロー」などの知恵を蓄えるには、抽象的思考力が必要です。
人に物事を伝える場面でも、抽象的と具体的な思考力を使い分けることが大切です。
「抽象」だけだと話が曖昧なままで、「具体」だけでは話の要点が伝わりづらくなります。抽象的思考に偏ると、机上の空論や理想論しか生まれず、現実的な成果を得られません。
4.抽象化・具体化のスキルを上げるには抽象的・具体的という言葉自体は誰でも知っているのですが、実際に意識的に「抽象と具体を使い分けて考えている」という人があまり多くないという印象を感じています。
抽象的・具体的に考えることは、異なる視点で物事を捉えることが要求されますが、多くの場合、この切り替えが難しく、一つの視点に固執してしまいがちになります。
具体化と抽象化のスキルは、「考える筋トレ」みたいなもので、意識的に練習すると確実に鍛えられます。
このスキル自体に焦点を当てて、日ごろから仕事上だけでなく家族や友人との会話においても意識的に使う習慣を身に着けていくことが大切だと思います。
【具体化スキルを上げるには】
5W1Hを使って掘り下げる:あるテーマについて「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「どのように」を具体的に掘り下げ詳細化していきます。
【抽象化のスキルを上げるには】
①「なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」を3回以上くり返して本質を掘る質問をする
②バラバラな事例の中から、事象の“共通点”を探すトレーニングをする
③「要するに・・・」と一言でまとめる。まとめるためには、詳細なことを簡潔に表すために言葉を洗練しなくてはなりませんので、情報を取捨選択し、抽象度を上げるトレーニングになります
【抽象と具体を行き来して話す】
抽象化、具体化といっても「抽象的な事柄」「具体的な事柄」の2つに分けられるわけではなく、あくまで相対的なものです。
自分と相手の「抽象度」がどのくらいか?を意識しながら、適切なレイヤーの抽象度で話さないとコミュニケーションはスムーズにいきません。
どのくらいざっくり見るか、どれくらい細かく見るかということを調整して、その時々によって適切に合わせる必要があります。
【自分がどちら寄りか意識する】
自分がどちら寄りかというのを意識することも大事です。
現時点で自分がどちら寄りか認知した上で、足りないほうを意識して話します。
抽象度レベルの高い人は思考として共通項を抜き取ることが普通にできるから、ジャンルを超えて結果を出せますし、商品やコンテンツの説明もしやすくなります。
抽象度の低い人は細部しか見ていないから見方が狭くなり過ぎていますので、もっと俯瞰して大きな視点から見るようにすると良いでしょう。
日頃から難しい話を、かみ砕いて具体化しながら分かりやすく説明するようにして、抽象と具体をサンドイッチして話すように意識しましょう。
5.「問題発見」と「問題解決」のために「抽象化と具体化」を使いこなす「問題解決」と「問題発見」では、それぞれの特徴と求められている思考の方向性が異なります。

問題発見と問題解決にあたってはこのような特徴をよく理解して、場面に合わせて使いこなすことが大切だと思います。
重要なのはシンプルにして本質的な「問い」、多面的な「問い」を考える思考力です。
目的から手段を考え出す「問題解決」プロセスでは、意識的にHOW?(どのように)を繰り返していく「具体化」の思考力が必要です。
問題を発見するプロセスでは、意識的にWHY?(なぜ)を繰り返していく「抽象化」の思考力が不可欠です。
「抽象化思考」のスキルは、生産性を高めるためにAIを活用していくことが求められるこれからの時代においてはますます重要な必須スキルになっています。
「問題発見」と「問題解決」にあたっては、意識的に「具体から抽象へ、抽象から具体へ」のステップを踏んで考えていく手順を繰り返して慣れることが大切です。
(1)具体的な事象を抽象化して現象の奥にある欲求や構造を見出し、現象の中の課題の本質を捉える
(2)課題の本質を整理し、抽象レベルで眺めて、共通している本質的な解決策を探求する
(3)本質的な解決策を実現するための具体的な解決策を考えていく

参考図書
「問題発見力を鍛える」(細谷功)(講談社現代新書)
「具体<=>抽象」トレーニング(細谷功)(講談社現代新書)