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第39回 事業計画はバックキャスティングで考えよう


2026年04月17日

投稿者:日下部 清

1.バックキャスティングとは何か?

最近、環境問題・社会課題の解決、中長期の経営戦略や新規事業開発、キャリア設計、などの文脈において、「バックキャスティング」という言葉をよく耳にするようになりました。
「バックキャスティング」と反対の意味の言葉に、「フォアキャスティング」があります。

「フォアキャスティング」とは、現在や過去のデータを起点にして積上げ型で延長上にある未来を予測し、自分がおこなうべき行動を決めていく一般的な思考法で、変化が少なく成長が見込める時代には通用していた考え方です。
これに対して、「バックキャスティング」とは「未来の理想の姿から逆算して、今やるべきことを考える思考法」です。
まず「こうなりたい」「こうあるべき」という未来を描く。そこから逆にたどって「今、何をすべきか」を決めるという考え方です。

例えば、5年先までの売上計画を検討する場合において、一般的な考え方では、「今の売上や状況から少しずつ未来を予測しながら整理作成していきますが、バックキャスティングでは、「5年後の理想状態を先に決める」、そこから「3年後は?2年後は?1年後は?」と逆算していって、「今取るべき行動を決める」というような手順で考えます。

山登りで例えると、フォアキャスティングは「今の自分の体力と装備なら、どれくらいの高さまで登れるかな?」と考えて計画を立てる方法で、堅実ですがいつまで経ってもエベレストの頂上にはたどり着けないかもしれません。
それに対して、バックキャスティングは、「何が何でも頂上に立つ!」と決め、そのために必要な酸素ボンベやルート、今の自分に足りないトレーニング内容を逆算して準備する方法です。





■フォアキャスティングとバックキャスティングの特徴


バックキャスティングとフォアキャスティングのどちらが優れているか?という話ではありません。
ビジネスでは、「バックキャスティングで大きな方向性を決め、フォアキャスティングで具体的な実行プランに落とし込む」という下記のようなイメージで両方をうまく組み合わせることが良いと言われています。
・バックキャスティングで「10年後に業界シェア1位になるための全く新しい事業」を構想する。
・フォアキャスティングで「来月の売上を5%上げる」計画を立てる。



2.なぜ今、注目されているのか?

バックキャスティングが注目されている理由は、単なる流行ではなく今の時代環境に必要とされる意思決定の方法だからです。

①未来が「予測できない時代」になってきた

DXやAI活用・働き方改革の技術革新や制度変更など環境の変化速度が大きくて、過去の延長が通用しない状況になってきています。
現代のように変化が激しく、過去の延長線上に未来があるとは限らない時代においては、「現状の延長」で考えていると、あっという間に時代に取り残されてしまうリスクがあります。

②持続可能な社会実現への取組が重要になってきている

持続可能な社会を実現するには、大きく社会を変革しないといけません。
現状維持を重視するのではなく、まずは皆が望む未来を描き、共有し、それを実現するために、変化に応じて行動を変える力を身につけなくてはいけません。
国連の定めるSDGsは、「2030年にこういう未来を実現したいから、今年からこんな活動を始めよう」というように、ありたい未来を提示しながら、現在の行動について説明するバックキャスティングの特徴を生かして策定されています。

③長期戦略が重要な時代になってきた

公共事業・エネルギー事業・自動車産業等の業界や介護や医療などの社会的なインフラに基づいた事業は「短期では変えられない業界」です。
外部環境に大きく影響されることの大きい業界では、数十年先の未来の姿を描いた上で、10年後、5年後・1年後と逆算して「何をしなければいけないか」を設計する考え方が不可欠になっています。



3.中小企業におけるバックキャスティング思考法のメリット

バックキャスティングは現状の延長上ではない野心的な未来の姿を具体的に描いて、「どうしたら実現できるのか」を考えていくことにより、人や組織の意識と行動の変容を促していく思考法です。
バックキャスティングでは、「理想から考える」ので「現状に縛られずに大胆な目標が立てられる」「新しい企画や事業が生まれやすくなる」という特徴があります。
中小企業においても従業員とともに、バックキャスティングの考え方を取り入れながらビジネスモデルの見直しを進めていくことによって以下のようなメリットが生まれます。

(1)組織内の風通しがよくなり利益が向上する

最大のメリットは理想の未来を実現できることですが、バックキャスティングは短期的にもメリットを生み出します。
企業内であれば、理想の未来を描くプロセスに関わった従業員間の風通しが良くなります。
部署の壁を越えてコミュニケーションが生まれやすくなり、組織が活性化され、顧客の声が社内で共有されやすくなり、結果として利益向上が実現するという現象が起こります。

(2)創造性が増し新しい企画や新規事業が生まれやすくなる

フォアキャスティングは「今の延長」でしか発想できず今までの保守的な発想からなかなか抜けられません。
バックキャスティングで、一緒に未来像を作成した人たち全員が個々人の思いをしっかりと理想の未来に込めることができていれば、組織内で多様性が生まれやすくなり、従業員発信で新しい企画や新規事業が生まれやすい環境が形成されていくことになります。

(3)従業員が「ワクワク感」が高まり、主体的に仕事や学習に主体的に取り組むようになる

バックキャスティングでは理想を分解して逆算して行動に落とし込んでいきますので、「結局何すればいいのか?」という具体的な行動計画が明確になります。
理想の未来像の実現に向けて、現在取るべき行動が決められれば、これから「どんなスキルを磨くことが必要なのか」という新たな学習の目標も明らかになってきます。
全社一丸となって真剣に取り組み、アイデアと力を集め、主体的・積極的に行動して非常に挑戦的な目標を実現していくビジョン主導型企業の先進事例がたくさん出てきています。



4.バックキャスティングで考えていくステップ

身近な例として、魅力ある飲食店を創る場合についての具体的なバックキャスティングの進め方を考えてみましょう。
第1ステップ:期限を決めて理想の未来を具体的に定義する

出発点として「3年後に地域で予約が取れない人気店」というような理想のゴールを設定します。
「できそうか」ではなく「こうありたい」というワクワク感を優先します。理想の状態を「数字+状態で描く」のがポイントです。
数値目標の例としては、月商:500万円、営業利益率:15%、客単価:4,000円、リピート率:60%、ネットの評価★が4.3以上、スタッフ定着率:90%など。
店舗の目標としては「常連が多い」「紹介・口コミで来店される」「スタッフが主体的に動く」などです。

第2ステップ:中間地点の目標を設定する

「理想の未来像にたどり着くための中間地点」を3年後→1年後→半年後と逆算して設定することです。
例えば、3年後のゴールから逆算して、1年後は月商350万円・リピート率40%、半年後の月商250万円・リピート率30%というように現実的なステップ目標を設定します。
1年後の新規来店数:月100人、リピート率:30%、Instagramフォロワー:+300/月、口コミ数:+20件/月、スタッフ離職:0人などの管理目標の設定も大切です。

第3ステップ:現在との「ギャップ」を冷静に分析する

理想の姿と現状を比較し、何を改善しなければいけないのか?の重要な成功要因をリストアップします。
飲食店の例では以下のような要因ですが、それぞれの項目に改善する数値目標も設定します。

①味・見た目・独自性などの商品力
②雰囲気・接客レベル
③SNS・口コミなどの集客方法
④リピート客にしていく仕組み
⑤従業員確保と教育方法

第4ステップ:「今やるべき行動」を明確にする

具体策に落として「今やるべき行動」を明確にすることおよび「管理できる目標数字」を設定することです。
「看板メニューを3つ開発する」「原価率をコントロールする」「接客マニュアルを作成する」「来店時の声かけを統一する」「Instagramを毎日投稿する」などです。

第5ステップ:毎日の行動を着実に実行していく

最後のステップは「週・日単位の行動に落として確実に実行を継続していく」ことで、地道に行動を続けていかなければ成功しません。
例えば、「SNS投稿」「来店客へ口コミ依頼」を毎日する、「売上・来客分析」を毎週行う、「メニューの追加は毎月行う」などを確実に実行するようにします。
また、設定した行動目標や戦略は、3か月ごとなど定期的に見直すことも重要なポイントです。


5.バックキャスティングをうまく運営するための注意点

失敗してしまう場合に一番よくあるのが、以下のように理想を立てるだけで計画・実行が具体化されないことです。
フォアキャスティングの思考法も組み合わせて具体的な実行プランを設定するようにしてください。

・ありがちなのが「理想が“きれいごと”で終わる」こと。
・現実とのギャップが大きすぎて「どうせ無理」で現場が冷めていること。
・未来の姿は描いたけど要因の分析が甘くて『で、具体的には何するの?』で止まってしまうこと。
・計画を経営者だけで作ってしまい、現場ではヤラサレ感が強くなり実行されないこと。

以下のようなことに注意しながら、夢を実現する強い志を持って楽しく挑戦していくことが上手に運営していくことが重要だと思っています。

①未来の姿は遠慮せずにワクワクするような理想を持つとともに具体的な数値目標を設定すること。

②出来るだけ多くの人が自身の考えを自由に発言できるよう職場には心理的な安全性を確保すること。
みんなで変革の意識を共有し失敗も受け入れながら、声かけあって楽しく挑戦を続けていくこと。

③最初に作成した理想の未来目標にはこだわりすぎないこと。
今年考えた5年後と来年の5年後とは違ってもよいのです。夢を持って実践していれば新しいアイデアも生まれてきますので、事業計画もバージョンアップして成長し続けていけばいいのです。




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